2002年4月17日水曜日

【裁判例情報】サロン・ド・リリー事件

サロン・ド・リリー事件(浦和地裁昭和61年5月30日判決)

(事実の概要) 
Xは、美容室の経営を業とする株式会社であり、Yは、昭和59年4月1日にXに入社した者である。X会社は、新入社員との間で、新入社員が会社の意向を無視して退社するに至った場合、美容に関する指導訓練に必要な諸経費として、入社月に遡って1か月につき4万円の講習手数料を支払う旨の契約を結んでおり、Yとの間においても、同年6月に同内容の契約を締結した。 しかし、Yは、同年11月18日にX会社の意向を無視して退職したため、X会社は、7.5か月分の講習手数料の合計30万円及び遅延損害金の支払を求めて出訴した。

(判決の要旨) 
労働基準法第16条が使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をすることを禁じている趣旨は、右のような契約を許容するとすれば労働者は、違約金又は賠償予定額を支払わされることを虞れ、その自由意思に反して労働関係を継続することを強制されることになりかねないので、右のような契約を禁じこのような事態が生ずることを予め防止するところにあると解されるところ、当該契約がその規定上右違約金又は損害賠償の予定を定めていることが、一見して必ずしも明白でないような場合にあっても、右立法趣旨に実質的に違反するものと認められる場合においては、右契約は同条により無効となるものと解される。
そして、当該契約が同条に違反するか否かを判断するにあたっては、当該契約の内容及びその実情、使用者の意図、右契約が労働者の心理に及ぼす影響、基本となる労働契約の内容及びこれとの関連性などの観点から総合的に検討する必要がある。 
以上に認定した本件契約の目的、内容、従業員に及ぼす効果、指導の実態、労働契約との関係等の事実関係に照らすと、仮令Xが主張するようにいわゆる一人前の美容師を養成するために多くの時間や費用を要するとしても、本件契約における従業員に対する指導の実態は、いわゆる一般の新入社員教育とさしたる逕庭はなく、右のような負担は、使用者として当然なすべき性質のものであるから、労働契約と離れて本件のような契約をなす合理性は認め難く、しかも、本件契約が講習手数料の支払義務を従業員に課することにより、その自由意思を拘束して退職の自由を奪う性格を有することが明らかであるから、結局、本件契約は、労働基準法第16条に違反する無効なものであるという他はない。

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