2002年4月17日水曜日

【裁判例情報】懲戒

◆ 懲戒の根拠

関西電力事件(昭和58年 最高裁第一小法廷判決)
労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができるものとされた。

フジ興産事件(平成15年 最高裁第二小法廷判決)
使用者が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことが必要とされた。

◆ 懲戒の種類・内容と手続

① 注意・戒告・けん責

エスエス製薬事件(昭和42年 東京地裁判決)
就業規則に、譴責等の懲戒処分を行う前に使用者が労働者から始末書の提出を求めうる旨規定していることから、労働者が始末書の提出を拒否したことは「上長の指揮命令に従わず」との事由に該当し、懲戒処分の対象となるものとされた。

福知山信用金庫事件(昭和53年 大阪高裁判決)
「誓約に違背する行為をしたときはいかなる処分を受けても異議を申し立てない」旨の誓約書には包括的な異議申立権の放棄を意味する文言を含んでおり、また、労働者の内心の自由にかかわる問題を含んでいることから、この誓約書を提出しないことをもって企業秩序を紊乱するものとはいえず、懲戒事由とはなりえないものとされた。

JR東日本(高崎西部分会)事件(平成8年 最高裁第一小法廷判決)
就業規則等に規定がなくそれ自体としては直接的な法律効果を生じさせるものではない厳重注意も、労働者の職場における信用評価を低下させ、名誉感情を害するものとして労働者の法的利益を侵害する性質の行為であるとされた。

立川バス事件(平成2年 東京高裁判決)
始末書を取り将来を戒める譴責処分の無効確認の訴えについて、過去の事実関係又は法律関係の確認を求める訴えを起こす必要性は特になく、労働者が当該企業から退職している状況においては、訴えの利益を欠いているとして却下された。

② 停職(出勤停止)

ネッスル事件(平成2年 東京高裁判決)
使用者は(懲戒処分とは異なる)業務命令としての出勤停止(自宅待機)を命じることができるが、労働契約上要請される信義則に照らし、その権限は合理的な制約に服するものとされた。

日通名古屋製鉄作業事件(平成3年 名古屋地裁判決)
懲戒処分に先立って行われる自宅謹慎処分は、それ自体懲戒的性格を持つものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令であり、使用者の賃金支払義務は免れないものとされた。

③ 懲戒解雇と退職金

小田急電鉄事件(平成15年 東京高裁判決)
懲戒解雇はやむを得ないものとされたが、懲戒解雇の理由となった行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち一定割合を支給すべきものであるとして、本来の退職金の支給額の3割を支給すべきとされた。

④ 懲戒事由

橋元運輸事件(昭和47年 名古屋地裁判決)
懲戒事由としての「二重就職」について、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないとした。

山口観光事件(平成8年 最高裁第一小法廷判決)
懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠づけることはできないとされた。

富士見交通事件(平成13年 東京高裁判決)
懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができるとされた。

⑤ 懲戒事由と懲戒の種類・内容との均衡

京阪神急行電鉄事件(昭和37年 大阪地裁判決)
鉄道会社の改出札業務に従事する労働者が切符の不正販売により金銭を領得した行為は、経営の基礎を揺るがすものであって、懲戒解雇処分は過酷な又は不当な処分とは言いがたいとされた。

ソニー生命保険事件(平成11年 東京地裁判決)
使用者から貸与されたパソコンを質入れした労働者の行為は、「会社の金品等を費消又は流用したとき」との懲戒事由に該当し、使用者の行った懲戒解雇が有効とされた。

日経ビーピー事件(平成14年 東京地裁判決)
労働者が約2箇月間にわたり上司による承認を得ずに欠勤し、使用者からの職務復帰命令に違反した等の行為は、労働者の基本的な義務に反する重大な命令違反であり、重大な非違行為であるから、懲戒解雇は相当な処分であるとされた。

⑥ 懲戒の手続

中央林間病院事件(平成8年 東京地裁判決)
就業規則の定めに反して懲戒委員会を開催せず、これに代替する措置が執られたとも認められないこと等を理由として、懲戒解雇が無効とされた。

⑦ 懲戒解雇と普通解雇との関係

高知放送事件(昭和52年 最高裁第二小法廷判決)
懲戒事由に当たる事実が存在している場合に普通解雇を行うことは可能であり、その際の要件としては普通解雇の要件を備えていれば足り、懲戒解雇の要件まで要求されるものではないとされた。

日本メタルゲゼルシャフト事件(平成5年 東京地裁決定)
懲戒解雇と普通解雇は異なる制度であり、実際上懲戒解雇は普通解雇に比して特別の不利益を労働者に与えることから、懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換することは認められないとされた。

岡田運送事件(平成14年 東京地裁判決)
懲戒解雇の意思表示に至る経過に照らして、懲戒解雇の意思表示に、予備的に普通解雇の意思表示が内包されている場合があるとされた。

◆ 懲戒権の濫用

ダイハツ工業事件(昭和58年 最高裁第二小法廷判決)
使用者の懲戒権の行使は、具体的事情のもとにおいて、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になるとされ、出勤停止処分に従わず工場内に入り警士を傷害したこと等による懲戒解雇は権利の濫用に当たらないとされた。

炭研精工事件(平成3年 最高裁第一小法廷判決)
経歴の詐称を理由とする懲戒解雇につき、他の情状をあわせ考慮し、懲戒解雇事由としては相当であり、使用者の懲戒権の濫用には当たらないとされた。

七葉会事件(平成10年 横浜地裁判決)
労働者の軽微な過失に対し、使用者が7日間の出勤停止処分を行ったことについて、減給処分にすれば足りるものであり、出勤停止処分は裁量権を逸脱して無効とされた。

三和銀行事件(平成12年 大阪地裁判決)
主として労働条件の改善等を目的とする出版を行うことは、形式的に就業規則所定の懲戒事由に該当するとしても、使用者に対する批判行為として正当であると評価され、労働者に対してなされた戒告処分は懲戒権の濫用とされた。

崇徳学園事件(平成14年 最高裁第三小法廷判決)
法人の事務局の最高責任者が会計処理上違法な行為を行い、法人に損害を与えた行為について、法人が同人を懲戒解雇したことは、客観的にみて合理的理由に基づくものであり、社会通念上相当であるとされた。

◆ 労働者の損害賠償責任の制限

茨石事件(昭和51年 最高裁第一小法廷判決)
使用者の事業の執行につきなされた労働者の加害行為により使用者が損害賠償責任を負担したことに基づき労働者に対して行う求償及び使用者が直接損害を受けたことによる労働者に対する損害賠償請求は、事業の性格、労働者の業務の内容、加害行為の態様等諸般の事情に照らして、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる範囲に限られるとされた。

◆ 留学・研修費用と損害賠償

サロン・ド・リリー事件(昭和61年 浦和地裁判決)
社員が会社の意向を無視して退社するに至った場合、指導訓練に必要な諸経費として講習手数料を支払う旨の合意は、労働基準法第16条に違反して無効とされた。

新日本証券事件(平成10年 東京地裁判決)
「留学後5年以内に自己都合により退職したときは留学費用を返還させる」旨の就業規則の規定について、海外留学後の勤務を確保することが目的であり、留学終了後5年以内に自己都合で退職する労働者に対する制裁の実質を有することから労働基準法第16条に反し無効とされた。

明治生命保険事件(平成16年 東京地裁判決)
「留学終了後5年以内に自己都合退職した場合、留学費用(人件費相当分を除く)を全額返還する」旨の誓約書に基づいて使用者がなした留学費用返還請求が認められた。
 
 

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