2002年4月17日水曜日

【裁判例情報】小田急電鉄事件

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)

(事実の概要)
鉄道事業等を業とするY社に勤務するXは、他社の電車に乗車中、女性客に対する痴漢行為を行い、逮捕勾留され、罰金刑に処せられた。Y社の担当者がXの釈放後にXから事情聴取したところ、Xはこの事件を起こす前にも、同様の痴漢事件1件を起こし、罰金刑に処せられていたことを述べた(実際はもう1件起こしており、同様に罰金刑に処せられていたが、Xはその場では供述しなかった)。そこでY社は賞罰委員会を開催し、昇給停止及び降職処分を下した。約半年後、Xは他社の電車に乗車中、女性客に対する痴漢行為を行い、逮捕勾留され、執行猶予付きの懲役刑に処せられた。Y社の担当者は勾留中のXと接見し、Xが起こしたすべての痴漢事件についての事情を聴取し、XはY社にいかなる処分を受けても一切弁明をしない旨の「自認書」に署名押印した。Y社は賞罰委員会の討議を経て、Xを懲戒解雇した。Y社は、就業規則に「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」との規定があることから、Xに対して退職金を支給しなかった。これに対してXは、Y社の就業規則には諭旨解雇処分の規定があり(諭旨解雇の場合、退職金は半額支払われることとなっていた)、自らの行為は諭旨解雇相当であるとして退職金の支払を求めて出訴した。1審はXの請求を棄却したため、Xが控訴したものである。

(判決の要旨)
Xは、<中略>電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、<痴漢行為を>行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止及び降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいとの始末書<証拠略>を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。このような事情からすれば、<中略>その社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、それはやむを得ないものというべきである。
Y社には、基本的には、初任給等を基礎として定められる退職金算定基礎額及び勤続年数を基準として算出した退職金を支給する旨の退職金支給規則があること、そして、同規則の4条には、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない。」との条項(本件条項)があることは、認定したところである。上記のような退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。しかし、他方、退職金は、賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。そのような事情がない場合には、懲戒解雇の場合であっても、本件条項は全面的に適用されないというべきである。<中略>
そうすると、<本件のような場合には、>当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。本件については、<中略>本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきである。その具体的割合については、上述のような本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、または、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事情等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割であるとするのが相当である。

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